【全問詳説・図解】2024年秋東大オープン生物の講評&東大生物解答戦術
本記事の位置付け
この記事では、先日実施された東大オープン模試の理系生物の各小問への向き合い方について、独学で東大模試の生物で全国24位(偏差値68.3)を獲得し、大学では生化学の基礎研究に2年間従事した筆者の一例を示します。巷に情報が少ない東京大学二次試験理系生物に関して、上位答案を作成するための思考法やテクニックをふんだんに紹介しますので、生物選択の方は是非ご一読ください。
本記事は、東京大学理科二類を中途退学後、現在九州大学医学部医学科5年、およびメタスキリング講師のino(https://note.com/mis0_soup_/)が執筆を行います。
本記事の読み方
本記事は、基本的に2025年度東大OPの生物を受験した人向けに書かれています。お手元に模試の問題と模範解答を準備して、私の記事を読みながら一緒に模試の復習をしましょう!また、生物の実験考察問題の考え方をたくさん散りばめているので、模試を受けていない生物選択の方にもおすすめの内容となっています!
反響が大きければ、東大本試験のレビューや他大学のレビューも作成されるかもしれません。生物選択のみなさん、応援よろしくお願いします!
色と難易度の対応:一般的な問題<理一理二レベルで差がつく問題<理三レベルで差がつく問題
第1問 ショウジョウバエの翅の形成 [難]
全体感
第1問は分量と難易度ともにとてもヘビーでした。悩もうと思えばいくらでも悩める問題が多く、ここで大量の時間を浪費してしまう恐れがありますし、実際私も初見時40分くらいかかった上にいろいろ誤答しました。この設問はいくら時間があってもできないときはできない難問が多いので、試験本番では潔く撤退することも一つの手であると考えます。
東大の理科の問題で思ったような点数が取れていないときは、① 時間があれば解けるのに パターンと ② 時間制限にマスクされているが、実はそもそもその問題が解けるレベルの実力に達していない というパターンがあるということは2025東大OP化学のレビューでも述べました。本問で思った通りの点数が取れていない受験生は多いと思いますが、その原因が①か②かを考えてみましょう。今回は僕ですら②に当てはまる問題が多いため、僕が成長するために採るべき対策は、標準的な問題や今回誤答した問題をじっくり分析して、少なくとも時間をかければ解けるという状態に持っていき、得点の理論値を伸ばすというものです。
もし時間だけがネックだったという人は、考え込む時間を減らす(≒シンプルな解答で満足する)ことや、瞬殺できる問題を増やす、他科目や他の大問にかける時間を減らすなどの、得点効率や注入時間を伸ばすという戦略を採ることが考えられます。
第1問A 知識選択肢
いきなり系統分類の問題で面食らったと思われます。系統分類を大テーマとした出題は2020年度本試験第3問にあり身構えますが、今回は小ネタとしての出題でした。この小問は、当該年度の第3問(B)に類似しています。
胚葉の数が0から3に増えるほど体構造は段階的に複雑になり、最も単純な多細胞動物であるカイメンには血管や臓器などの器官系(中胚葉由来)はもちろん、神経(外胚葉由来)もなく、生存に必要な栄養はえり細胞という水流を取り込み消化する細胞で生み出しているチューブみたいな構造をしています。
二胚葉性動物では外胚葉と内胚葉の分類が生じるため、散財神経系が存在するがまだ複雑な臓器はできません。これより、クラゲやイソギンチャク、サンゴなどの、見た目植物みたいな印象を受ける海棲動物が該当します。
他の動物は三胚葉性動物ですが、単純寄りの構造な動物の中でこれを選ぶのが本問です。ここまでの議論からすると、器官系があるなら三胚葉性動物と判断してよく、例えばプラナリアをイメージすると目が付いていることがわかるので、プラナリアは三胚葉性動物と判断できます。このように、生物の用語を覚えるときは、字面だけを無機質に覚えようとするのではなく、実体験に接地できないか考えてみると良いです。
第1問B 知識記述
2024年度第3問が神経管の細胞分化に関する大問であったため、それに関連した出題です。
形成体による神経誘導の原理の説明は、似た概念に表層回転による背腹軸決定(ディシェベルド, βカテニン, GSK)、予定内胚葉による中胚葉誘導(βカテニン, ノーダル)や母性効果因子(ビコイド、ナノス)による前後軸決定などがありややこしい上に、ストーリーが複雑でやや高度ですが、教科書に記載があるため本番では記述できるようになっておきたいです。
第1問C 単問考察
類題:2009年第1問(II)(D)
下線部(ウ)の前後にヒントがあるから、リード文の内容を参考にして理由を考察し記述する問題です。母性因子に関する知識があればほぼ知識問題ですが、答案を作成するときは、与えられたヒントの形式に沿って記述を作成できないかを考えるとポイントを外さないし文章を考える手間が省けます。東大生物の問題を解くときは、文章をよく読む癖をつけましょう。
第1問D-1 単問考察・計算問題
G1の計算では、ビコイド遺伝子がBであるかbであるか子の生存に関係するのは「母親世代でB or bか」の話であるため、配偶子形成のときに組換えが起こったとして子世代でBとF(多毛遺伝子)の連鎖関係が変化したとしても、いつもと違って表現型Bと表現型Fの連鎖関係は組換えによる影響を受けないことに注意。したがって、G1の計算で9:1:1:9の比は登場しません(使ってもいいが結局1:1になる)。
解説にあるように、F1世代のメスは正常なBを持っているため、F2世代の子はとりあえず全生存します。G1の計算で求められているのは多毛か否かであるため、この時点でBは計算に含める必要がなくなり、単に遺伝子Fに関する検定交雑を行うこととなります。
第1問D-2 計算問題
G1の考察によって、F2世代はとりあえず全生存しているが、bbffなどの[b]個体も混ざっているということがわかります。このような個体から生まれた子は致死なので、ひとまずF2世代の遺伝子型の比を求めることとしましょう。ここで初めて、F1世代のメスの配偶子において組換えが起こったことを考慮に入れて計算する必要が生じます。
F1(BF/bf)で組換えが起こると、その個体が生じる配偶子の遺伝子型の分離比は9:1:1:9になり、これとbbffのオスが交配したときの多毛の成虫の遺伝子型はBf/bfとbf/bfでありその比は1:9(∵組換え価10%)。これをbbffのオスと交配させると、Bf/bf由来の受精卵だけが成虫まで育ち、全て多毛になります。したがって、G2の値は10%です。状況設定が非典型的であったが、計算量は軽いという思考重視の計算問題でした。
第1問E 実験考察客観
リード文の条件とひとつずつ比較していけば正解を選ぶことができます。ここで大問全体に関わる遺伝子の機能を大まかに把握しておきたいため、確実に正答したいです。
第1問F 実験考察論述
48ページ最下段の文章は大事なので自分で線を引いておいて、知見3,4もよく読んで解答します。図1-2と知見3, 4から、翅前半分ではEなしHなしPありで、Dができうること、翅後半分ではEありHありPなしでDができないことがわかります。リード文と知見1, 4から、細胞外分泌性だがほとんど拡散しないHが、近くにあるPに受容されるとDができることがわかるので、Dは境界前側の縁の細胞でできることがわかまます。(前問(3))記述の[語群]のE, H, P, Dの機能についてはこのくらいを把握しておきましょう。ExHxPo ⇨ Do
さて、本問では「本来の発現領域以外の領域からDが分泌されるしくみを考え、説明せよ」と指示されています。設問文の実験では、いつもはDができない翅端(EありHありPなし)に領域X(EなしHなしPあり)を作ったら変なところからDができて変な翅ができたとあるので、領域XにあるPにHが受容されたということが予想できます。そこで、Eから始まるシグナル伝達の流れとHの細胞外分泌性や拡散性を考えると、領域XからDが分泌されることを説明することができる。
第1問G 実験考察客観
難問。
まず、解説にもあるように、翅脈はEのあるなしとDの濃度勾配によって決定されているということをここまでの実験や観察の結果から推論し、その前提の下で選択肢の考察に入る勇気が必要です。これは極めて高度な情報整理力が必要で、時間的な制約を考えると厳しかったと思います。仮にこの推論にたどり着けたら、他の可能性もあるかもしれませんが、それで進みましょう。現状の観察結果を最もよく、シンプルに説明できる原理を見つけたら、自信がなくても一旦それで進むということもあるというのが生命科学の研究の進め方であり、難しいところでもありますね。
これで考えると、EなしのところにEなしの操作をしても無駄であるから、翅脈の前から3本は[123 で確定します。ここまでで、(5)(6)(7)から2つ選べば正解というところまできました。ここで、解説にあるように濃度勾配のパターンから(7)を除外してもいいですけれども、1箇所しかE抑制領域を作らないのだから、そんなに複雑な変異にはならないだろうという推測から、(5)と(6)を選ぶ(十分性は解説で確かめられている)のが現実的な正答への辿り着き方であると思います。
第1問H 知識選択肢
CRISPR-Cas9は比較的新しいバイオテクノロジーであるため、受験問題としての歴史は浅く、また参考書の記述も詳細には行われていないため、知識問題とはいえども難しく感じた受験生も多かったかもしれません。
コラム:高校生物では発展的内容だが実験科学(医学・生物学)では常識なトピック(DNAの基礎)
- DNAの二本鎖構造は純水中よりもイオン強度が高い水溶液中で安定である
∵ DNA主鎖のリン酸基は負電荷を持ち、向かい合う二本鎖には静電気的な斥力がはたらいているが、水溶液中に陽イオンがあるとこの斥力を緩和してくれるから。 - DNAを保存するときは冷蔵し、pHは8.0付近に保つ。
∵ 低温だとDNaseの酵素活性が下がる。高温やpHの逸脱があると変性する - 緩衝液はTEバッファーというものを使うことが多い。
∵ Trisという生物学的に使いやすい緩衝液に、キレート剤のEDTAを混合したもの。EDTAは二価陽イオンとキレート生成し、DNase(活性に二価陽イオンを必要とする)の活性を阻害する。 - 制限酵素処理, ゲル電気泳動によるDNA長の評価, PCR法, プラスミドやウイルスベクターによる分子クローニング, 配列決定(Sanger法⇨次世代シーケンス法), ゲノム編集(CRISPR-Cas9によるノックダウンとノックイン), 小分子干渉RNAの導入によるノックダウン, タンパク質のaffinity精製, SDS-PAGEによる精製タンパク質の評価 etc…
といった手技が、DNAを扱う実験では基本的な手技になってきます(ラボの研究内容によって使うもの・使わないものがある)。これに加えて細胞や実験動物を扱う人は生きた細胞や動物を世話をするための手技も必要になりますが、私の専門ではないためこちらについては触れません。
第1問I 実験考察客観
CRISPR-Cas9をはじめとした古典的な遺伝子組み換え法では、原則として遺伝子組み換え操作後の細胞はその遺伝子を発現し続けます。一方で、Cre/LoxPシステムは特定遺伝子の時空間特異的(例えば、肝臓特異的なプロモーターの下流にLoxP配列を組み込んでおけば、Creを投与することで好きなときに肝臓だけその遺伝子をONにできる)な組込みを可能とする画期的な遺伝子組み換え技術であり、大学でバイオテクノロジーについて学ぶときに必出ですが、高校生物の教科書範囲は逸脱しており実験考察問題に分類されます。しかしながら、今回の模試で生物を選択した皆さんにはぜひ覚えておいてもらいたい技術です。
空欄の埋め方は模試の解説通りですが、Cre/LoxPシステムが一体何を目的としたどのような仕組みなのかを納得しておかないと空欄を埋めるのに迷ってしまい難しかったと考えられます。
自分が「当たり前・自明」だと納得している思考の枠組みのことを認知心理学で「スキーマ」と呼び、人は、自身の「スキーマ」に適合する内容の話であればすぐに理解することができます(みなさんは、「光合成」って言われたら直ちに大体なんのことかわかりますよね。それは皆さんが高校生物の学習の過程で「光合成」に関する様々な知識を身につけた結果、「光合成スキーマ」が形成されているからなのです。)。したがって、受験生物に関する「スキーマ」を増やすことは、次に類似の問題に出会ったときの思考リソース消費を大幅に削減できるという効用に繋がります。Cre/LoxPシステムはCRISPR-Cas9と並んで大学以降の生命科学系の研究では当たり前の知識であり、今後の出題は十分に予想されるし、大学以降でも役に立つ知識体系であるため、トピックとして知っておくに留まらず、「スキーマ」に昇華させておく価値は高いです。
コラム:2024年度ノーベル医学・生理学賞はmiRNA
2024年度のノーベル医学・生理学賞の受賞テーマは「miRNAと転写後の遺伝子発現の調節におけるその役割の発見」でした。遺伝子発現制御の根幹原理のひとつなので、受賞には大変納得ですし、同時にニュースを聞いたときはまだ受賞していなかったのかという驚きもありました(調べたら、2006年度の受賞内容がRNA干渉でした)。研究内容の詳しい部分にまでは踏み込みませんが、基本のシステムはとてもシンプルなので、図表を用いて解説します。この機会に、このトピックについては「スキーマ」を獲得しておきましょう。
遺伝子発現を調節するために生物が採ることができる戦略には大きく2つあり、1つは生産を増減させる。もうひとつは分解を増減させるというもので、RNA干渉は後者に当てはまります。RNA干渉は、特定のmRNAを分解することでその遺伝子の発現を抑制するシステムです。
① 特定のmRNAとは何か
ヒトなどの真核生物(受賞テーマの研究ではセンチュウ)のイントロンにはnon-coding RNAというタンパク質に翻訳されないRNAを産生する領域が存在します。イントロンにも生物学的意義が見つかってきているというのは最近数十年のトレンドです。ここに、miRNAという20-25塩基長程度の特定の配列をもつRNAのもととなるものが含まれています。ヒトでも多種類のmiRNA配列が見つかっています。
② どのようにして分解されるのか
図の左側に示しているように、核内でDNAから転写されたmiRNA前駆体は、核内でDroshaというDNA切断タンパク質でカットされます。それが細胞質に移行したら、今度はDicerというDNA切断タンパク質によってカットされ、miRNAとなります。これに、Argonautというタンパク質が結合してRNA-タンパク質複合体になりますが、この複合体はRISCと呼ばれます。RISCは、自身の持つmiRNAと類似の配列を持っているmRNAを見つけたらそのmRNAを捕まえて翻訳されるのを抑制します。また、完全一致する配列を持っているmRNAを見つけたらそのmRNAを分解してしまいます。
③ RISCの意義は何か
miRNAの20塩基くらいの配列は様々な遺伝子のmRNAに含まれている可能性があるし、逆に、ひとつの遺伝子のmRNAに様々な種類のmiRNAが反応する可能性があるため、この組み合わせは膨大になる。これによって、少数の小さなRNAの組み合わせによってゲノム全体の遺伝子制御のON/OFFの膨大な組み合わせを再現することができ、生物の緻密な遺伝子発現制御の実現に寄与していると考えられます。
また、図の右側にあるように、外来のRNA(ウイルス感染を示唆する)に反応して形成されるRISCもあり、これはウイルス由来RNAを排除するので免疫にも関与できます。
miRNAは遺伝子制御や発生などの基礎的な生命現象に関する分子という位置づけで研究が開始されましたが、近年はmiRNAと発癌との関係が非常に高い関心を集めています。大学の先生方もきっと注目している生命現象のはずなので、受験対策として必ず押さえておきたいです。
第1問J 実験考察論述
中問IIの一番初めの文章の冒頭に、ショウジョウバエの受精後120時間までの発生段階に関する説明があり、その後の翅原基の発生の説明も含めて要約すると、受精後36時間ごろに20〜40個の細胞からなる翅原基が、受精後60時間ごろには200個になり、遅くとも受精120時間後までに50000個にまで増えると書かれてあります。つまり、受精後36時間ごろ〜100時間ごろに翅原基が盛んに細胞分裂し、細胞数が急激に増大します。
ここで図1-6を見ると、受精96時間後までDを存在させておけば、そこでDの合成を止めたとしても、少なくとも翅原基の大きさについては正常に発生した場合と変わらない(わざわざ有意差なしと図の中に書いてくれている)ということがわかります。ここまでの事実からシンプルに答案を作成しましょう。もし、ここで考えすぎてしまうと時間だけを使って答えからは離れていってしまいます。「遺伝子群の発現パターン」という項目がありますが、これは解答には登場しないディストラクターと考えられます。時間が厳しい東大理科において、記述問題に過不足なく答えようと神経質になって推敲に時間を浪費するのは悪手です。設問に問われていることにシンプルに解答すれば正解であることが多いです。
第2問 植物の反応・窒素代謝 [標準]
全体感
第2問は今回のセットの中で最も解答しやすかったと思います。そのように感じる理由は実験がわかりやすいからです。知識問題に知ってるか知らないかの0/1で決まる問題が多く、今回は考察問題に着色をしましたが、基本の知識問題でも差がついていると考えられます。大問全体を20分くらいで突破できればいいと思います。
第2問A 知識選択肢
休眠解除におけるジベレリンの機能と、植物の種子の胚乳と子葉に関する知識問題。オオムギは有胚乳種子なので、無胚乳種子の記述を選んではいけないことに注意する。よく出題される植物(マメ、アブラナ、ブナ、クリ、イネ、ムギ、トウモロコシ、カキ)の胚乳の有無を実体験に接地するとしたら、タネ的な部分を食べててみずみずしい分厚い葉っぱ感(?)がある植物(マメ、アブラナ、ブナ、クリ)は子葉を食べる無胚乳植物で、均一な餅みたいな食感の植物(イネ、ムギ、トウモロコシ)は子葉ではなくて胚乳を食べている有胚乳植物です。
第2問B 知識記述
赤色光と遠赤色光が光発芽種子の発芽のスイッチを切り替えているのは頻出事実です。
第2問C 実験考察客観・計算問題
Fの遺伝子型[A1A1A2A2A3A3A4A4A5A5]とPの遺伝子型[a1a1a2a2A3A3a4a4a5a5]で交配したF1どうしにおいて、A3はF1の時点で全てA3A3だから除くとして、F1[A1a1A2a2A4a4A5a5]どうしの交配では単純に考えて2^4 = 16通りの表現型のパターンが現れるはずですが、4通りのパターンしか現れておらず、しかも表現型の分離比がよくみる(3X/4 + x/4)(3Y/4 + y/4) の展開式に現れる9:3:3:1であるため、4つの遺伝子が2つのグループに分かれてそれぞれグループ単位で動いているということがわかります。明らかに、(A1, A2)と(A4, A5)のグループが形成されており、A3は任意。こう考えると、答えを選ぶことができます。
第2問D 実験考察客観
対照実験を考察する問題では、一度にすべての条件を処理しようとしてはいけない。一つの条件に絞って丁寧に2群ずつ比較することで答えがわかりやすく見えてくる場合が多い。という原則を守りましょう。
本問はそこまで難しくないが、この原則に則って考えてみます。実験2の結果を遡りながら読んでいきましょう。Pは包被があると発芽しにくくなるということがわかり、一方で空気がある状態では包被があっても発芽するということも書かれています。Fについてはどうやっても発芽しているので、実験2からは「嫌気 × Pの包被」が発芽にマイナスであるような雰囲気を読みとれます。
実験3でこれを深掘りしています。図2-1(b)の対照実験はFの包被について注目しないでいいよということを保証してくれているので、図(a)についてじっくり考えましょう。折れ線が3つありますが、まず、◾️と◆の折れ線だけを比較し、上の仮説がどうやら支持されていることを読み取ります。ここで◻︎を一旦無視することが、より難しい問題を解くときの姿勢として大切です。次に◼︎と□を比較すると、嫌気条件は還元的な環境で代用されるということが読みとれます。 ここまで詳しく理解せずとも穴埋めはできますが、ここでDの穴埋めを見ると空欄はスムーズに埋まります。
第2問E 知識穴埋め
植物がアミノ基を取り込む時の基本的な化学反応であるため、確実に解答したい。
第2問F 知識選択肢
光合成細菌と化学合成細菌と通常の細菌を正しく分類しよう。
第2問G 単問考察
類題:2008年第3問(III)B
硝化が好気的な環境で起こりやすいということは、これが酸化反応ということを考えると理に適っています。2008年度に類似の出題があり、そのときは脱窒も問題に絡んでいたため少し状況が違っていました。本問では硝化しか話題に上がっておらず、過去の類題に引っ張られてそれ以上考え込みすぎても時間の無駄であるため、硝化= 酸化のアイデアが出た時点で記述を始めるべきです。
第2問H 単問考察
本当に①~④を足してe-の項を消すだけ。これ書いている人は係数の3/2 を分数のまま残したけどこれダメ?
第2問I 実験考察客観
まず、東大生物の問題を解くときは、文章をよく読む癖をつけるという原則は大事にしてほしいのですが、本問は逆にフィーリングから解答をエスパーすることも可能です。前問までの流れから電子伝達系がテーマになっているような雰囲気を感じ取り、設問Iの空欄のある説明文や[語群]からも明らかに電子伝達の話が見て取れるため、例えば(10)が「電子」なのは文章を全く読んでなくても入れることができます。電子がC(タンパク質)に渡されないというのは電子伝達系による還元反応が起こらないということを意味していそうなので、(13)は「還元」だし、語群の中で還元反応の対象になるのは(12)「NAD+」です。遡ってヒドロキシルアミンから生成される(9)はリード文をよく読めば「NO2-」しかないし、(11)は、電子を受け取っているのだから「受容体」です。このように、実験4, 5, 6を読まずに解答できてしまった!私が解いたときは、すべてを埋める前に念の為実験4を確認し、ユグロンが還元的化学反応の成立に関与していることを確定させて、電子伝達系と類似の反応系を想像し、他の実験の文章は読まずに空欄を埋めました。
「電子伝達系」のスキーマが備わっている人であれば私と同じように省エネで解答できたと考えられます。
第3問 体内環境の恒常性 [やや難]
全体感
第3問はホルモンや神経に関する問題で、実験がたくさん続くため実験の後半に差し掛かるにつれて何をやっているのかわからず脱落してしまう人も多かったと思います。また、最終問題は後半の全ての実験内容の理解を前提とした上で今回のセットの中で最も勇気ある思考の飛躍を必要とするため、とても難しかったと思います。実験考察では、何度も述べていますが、一度にすべての条件を処理しようとしてはいけない。一つの条件に絞って丁寧に2群ずつ比較することで答えがわかりやすく見えてくる場合が多い。という原則を守るように心がけましょう!そうすると複雑に見える問題も結構解けることがあります!
第3問A 知識穴埋め
恒常性の範囲で最も基本的な用語の空欄補充問題です
第3問B 実験考察論述
本問は、ob/obマウスという著しい肥満が特徴のマウス系統の研究から、脂肪細胞から分泌され食欲を抑制するレプチンが発見された歴史から作問されていると考えられる。これを知らなくても、「レプチンが作用すると食欲が減って痩せる」という内容をリード文から読み取っておこう。表3-1を見るときに注意するのは、一度にすべての条件を処理しようとしてはいけない。一つの条件に絞って丁寧に2群ずつ比較することで答えがわかりやすく見えてくる場合が多い。という原則です。本問では実験群IIとIIIだけを選んで、4ヶ月後の体重から見ていきましょう。正常マウスと併体結合したA系統マウスは、A系統どうしの併体結合マウスと比較して体重の伸びが緩やかになっている(比較的、痩せた)ことがわかります。実験1のリード文に、併体結合の説明として両者の血液を互いに循環させるとヒントが書かれているのは、これは正常マウスの血中のホルモンがA系統のマウスの血中を巡って作用することができることを読み取ってほしいという出題者からのメッセージです。このことから、A系統のマウスの肥満の原因はレプチンそのものがなかったからだということがわかり、以上をまとめると体重増加がマイルドになった原理を説明することができます。
第3問C 実験考察論述
本文で痩せ過ぎてしまうということは、レプチンが効きすぎてしまったということを意味します。B系統と併体結合したA系統はレプチン過剰で食事ができなくなってしまうのは、①B系統が大量のレプチンをレプチンを産生している ②B系統本人にはそのレプチンが効いていない という事実を導き、前問の結果と併せてB系統で欠損している遺伝子が確定します。問題で問われているのは「①の理由」を「B系統が肥満になる仕組み」とともに説明することであるので、それぞれを考えます。
「B系統が肥満になる仕組み」は、欠損している遺伝子の意味を考えると、レプチンの食欲抑制作用を享受できないためであることが明らかなので容易です。また、文章をよく読むと、「レプチンは脂肪細胞から分泌されている」という記述を見つけられるので、体重が大きなB系統のマウスでは正常レプチンが大量に産生されているのです。考えてもわからないことは大抵問題文にヒントが書かれています。
これを書いている人は、標的細胞からのフィードバック作用により分泌が増えているという理由を考えましたが、これはリード文の内容からは少々飛躍していますし、第一に出てくる答えではない考えすぎた結果の誤答だと思います。
第3問D 知識選択肢
ややマニアックな内容も含まれた神経解剖学の知識問題です。大脳は外側が灰白質ですが脊髄では内側が灰白質になります。
第3問E 単問考察
知らない言葉が出てきたら、問題文をよく読んで、必ず定義を押さえましょう。私は曖昧に解いて5倍にして誤りました。
第3問F 実験考察論述
Eまでで下準備の問題が終わり、この問題からは実験の内容に関する問いに入るため、実験2, 3の内容の解釈をしてから設問に対する解答を考えます。 実験2の結果のグラフでは△折れ線が目立っていますので、一つの条件に絞って丁寧に2群ずつ比較するという原則に則って、⚪︎折れ線と△折れ線だけで比較してみましょう。すると、「野生型のマウスを脱水状態にさせると、通常時と比較して200mM以上(300mMで最も差が顕著)の濃さの塩水を嫌うようになる」ということがわかります。
これは体液の浸透圧を考えると確かに合理的な結果です。このグラフから、NaxをKOしたマウスではこの「脱水時に塩水を嫌う」機能は失われていることもわかります。 実験3では、脳室にいろいろな濃度の水溶液を注射した野生型マウスとNax-KOマウスのペアに対して、300mMの食塩水嗜好比を計測しています。設問は、なぜ300mMで野生型マウスとNax-KOマウスのペアの食塩水嗜好比を比較したのか?というものですが、これは、実験2の結果から、もし両者に違いが出るとしたら、その差が顕著である見込みが高いことが予想されるからに他なりません。
第3問G 実験考察客観
上で確認した実験内容がわかっていれば、実験2の棒グラフを読み取り、適宜水溶液の浸透圧計算を行えばすんなり答えが埋まります。
第3問H 実験考察論述
実験4の文章に「静止電位に保ったまま」「NaCl濃度を高めていくと」細胞内にNa+流入が起こったとあり、これは「膜電位が閾値を超えたとき」細胞内にNa+流入を引き起こす電位依存性Naチャネルとは明確に異なっているため、これをまとめます。自分の頭で考えるのではなく、文章をよく読むと答えが書いてあるパターン。
第3問I 実験考察客観
Fで考察した「脱水時に塩水を嫌うのはNaxによる細胞内Na流入のおかげ」ということを頭に留めながら(1)~(3)を読むと、おかしいことがわかります。なお、(1)はマウスの行動を観察できていないため「嗜好性」を検証する実験モデルとしても(二重に)良くありません。
第3問J 知識選択肢
これは、神経細胞におけるNa-K ATPaseの機能に関する教科書的知識の空欄補充問題です。
第3問K 実験考察論述
文章をよく読み、実験5を正しく解釈したとしても、NaCl増加→グリア細胞NaxにNa流入→乳酸分泌促進→ニューロンG興奮→ニューロンS興奮→塩分摂取促進 という流れの関係しか読み取れず、これだけでは体液浸透圧上昇→塩分摂取促進という逆説的な結果が導かれてしまうため、この飛躍をどのように埋めるかを自力で考察して導かなければなりません。この問題の最もシンプルな解決策は、この神経回路のどこかに抑制性の介在ニューロンを割り込ませて最終結果を反転させることです。これまでの実験空、最初の3つの矢印の前後のON/OFF関係は確定しており、設問文にS興奮→塩分摂取促進の矢印も保証されているため、GとSの間に抑制性介在ニューロンが挟まっているという可能性だけが残り、これを論述します。
終わりに
東大生物の問題に上手く解答するためには、生物学の基礎・基本的な常識を十分に身に染み込ませた状態で試験をむかえるという王道的な戦術はもちろん採用した上で、①. 与えられた事実を素早くinput(不要な情報は一旦見ない原則)して ②. それらを適切に解釈(「実体験への接地」「スキーマ」の利用)し、③. ときには思い切った推論ベース(シンプルに説明可能ならほぼそれが答えの定石)で勇気を持って解答を進めるという、言われないとやろうとしないような特殊な戦術を駆使しなければなりません。ここに、学習時間が限られた高校生が東大生物で高得点を採ることが難しい理屈が詰まっているというのが私の持論です。これを認めるのであれば、東大生物に真剣に向き合うというのは「生物は暗記w 逃げw」という次元の話ではなく、下手をすれば物理や化学の高得点に必要とされるよりも高度な思考体系を要求される可能性すらあるかもしれません。東大生物受験のみなさん、あなたたちかなりレベルの高いことやってると思いますよ。
メタスキリングではこのようにメタな視点から言語化された学習理論の共有、さらには受験に限らず一生を通した能力開発の助けになるようなコーチング指導を実施しています。これまで記事によって強くプッシュしてきた数学・英語に限らず、物理・化学・生物ほか様々な科目をも承っております。詳細は、お問い合わせページをご参照ください。
ありがとうございました。 ino.